劇場版プリズマイリヤが、もはやFateシリーズの新たな一つのルートだったという話

「劇場版Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い」を見てきました。
いやあまあ単純に超面白かったんですが、それ以上にこの作品がFateシリーズの一編として出来が良すぎて感動しました。ネタバレ注意のところでは警告を入れるので、とりあえずそこまでお付き合いください。


さて、まずこのFate/kaleid liner プリズマ☆イリヤですが、そもそもどういった作品かというと、ヴィジュアルノベル「Fate/stay night」の登場人物であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを主人公とした外伝作品です。Fate/stay night本編とは設定に若干の差異はありますが、Fateシリーズの知識があれば概ねそのまますんなりと楽しめる作品となっています。

今回公開された劇場版Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓いは、このプリズマイリヤの登場人物である「美遊・エーデルフェルト」にフォーカスをあて、美遊の過去を明かすストーリーとなっています。これまでに放送されたアニメの続きであり、原作の漫画もコミックスとなっているのがちょうどこのあたりのストーリーということで、ほとんど最新作みたいなものです。ここでタイトルの話なんですが、この劇場版プリズマイリヤのストーリーのなにがすごいって、ズバリ言ってしまうと

Fate/stay nightの一つのルートとしてありえたんじゃないかってくらい、明確にFateシリーズのストーリーの1つとして完成してるんです。

要するに、Fateシリーズの外伝。あり得たかもしれないパラレルストーリーとしてめちゃくちゃ面白かったです。いわゆる桜ルートにあたるHeaven's Feelの公開を目前に控えているこのタイミングにやるものとしては、ヤバすぎるレベルのストーリーでした。

といったところで、プリズマイリヤをよく知らん人はこのへんでこの記事を見るのはやめたほうが良いかもしれません。一応ここからは今回公開されている劇場版プリズマイリヤのネタバレをします。なので、興味を持たれたらとりあえず見に行ってください。あえて知識を加えるなら、プリズマイリヤの世界には英霊の力を封じ込めたカードがキーアイテムとして出てくる。くらいのことだけ覚えておいてください。





























ネタバレNGな方いらっしゃいませんかー?はじめますよー?


では、仕切り直して、先程言ったとおり、劇場版プリズマイリヤはとても上質なFate/stay nightの外伝として機能しています。
世界観は概ねFate/stay nightと同じだと思っていただいて構いません。第4次聖杯戦争で切嗣は聖杯を破壊し、士郎はその後で切嗣に助けられ、彼の願いを継ごうとしています。物語はそのあたりからスタートします。

世界を救うための方法を探し続けている切嗣たちは、ある一つの可能性に行き当たります。朔月家という名家の子供に、人の願いを叶える大きな力があるのではないかというものです。その噂を確かめに行った士郎たちが出会ったのが、後の美遊・エーデルフェルトにあたる、朔月美遊でした。
紆余曲折の末、家族を失った美遊を士郎たちは世界を救うという目的のために家族の一員に加えて、美遊の力を使う方法を探ることにします。しかし、切嗣が手をつくしても結局その力を使う方法は見つからず、やがてFateシリーズと同じく切嗣は呪いで命を落としていしまいました。それから数年後、士郎は美遊との家族ごっこを継続していく中で、彼女のことを本当の妹と思っても良いのではないかと感じるようになりました。
様々な準備を整え、これまで隠してきたことを正直に美遊に話、本当の家族になろうとしたその時、美遊の力を狙う魔術の一門「エインズワース家」に美遊を奪われてしまいました。更に、士郎が新たに知る衝撃的な事実として、エインズワースは美遊の力を人類の救済に使おうとしていることを知ります。奇しくもその願いは、士郎や切嗣のものと同種のものだったのです。
それから暫くの間、士郎は美遊を取り戻すために様々な手をつくしますが、どれも効果はなくただただ時間だけが過ぎていきます。そんな折、この世界での聖杯戦争がスタート。この世界の聖杯戦争Fateシリーズ本編のそれとは異なり、英霊を自分の身に宿して戦うもの。士郎の後輩として想いを寄せていた桜も、この聖杯戦争に巻き込まれ、あっけなく命を落としてしまいます。
こうして、何もかもを失った士郎ですが、最後の最後にまだ自分自身が残っていることに気づき、聖杯戦争に身を投じます。そして、聖杯戦争に勝ち残った士郎が7枚の英霊のカードに託す願いはなんと、美遊一人の平凡な幸せでした。

というのがざっくりと今回の劇場版のストーリーです。

これのなにがやばいのかというと、Fateシリーズにおいて、衛宮士郎という主人公はもはや死んでも治らない呪いの域に達していると感じられるほどに、自分や身の回りの誰か数人ではなく、世界全体の幸せを願う、正義の味方であろうとすることをどこまでも追求するキャラクターとして描写されます。Fateシリーズに登場するアーチャー(真名エミヤ)は、そんな衛宮士郎が成長し、力をつけていく中で作られる、歪んだ1つの彼の終着点として衛宮士郎の前に立ちはだかるストーリーもあるほどです。英霊には時間の概念がなく、未来の可能性も英霊として呼ばれうる、というのもFateシリーズのからくりの1つなんですね。
原作にあたるFate/stay nightには、セイバールート、凛ルート、桜ルートの大きく3つの分岐があり、現在はセイバールートと凛ルートはアニメやコミカライズなどでその結末が描かれています。ちなみに、このどちらのルートでも最終的に士郎はエミヤにたどり着いてしまう可能性があるそうです。そのくらい、切嗣から受け継いだ彼の歪んだ理想というのは強固で、そう簡単に変わるものではなかったのです。

そんな衛宮士郎が、劇場版プリズマイリヤではなんと、人類救済を願うものたちの思いを踏みにじり、自分自身のワガママとして「妹の平穏」を願ったのです。この結論に至るまで、作中では何度も士郎自身の葛藤が描かれます。いわんとしていることはわかっているがそれでも…と苦悩し、様々な逃げ道があったにも関わらず最後に選ぶのが家族のことだった。コレほどまでに人間らしい願いを口にする衛宮士郎は、どの外伝作品にもそうは登場しません。というか、士郎が世界のためではなく身近な誰かのために万能の願望器を使うってそれはつまりあなた…おっと、この先は流石に駄目ですね。まあ、多少はね?

と言った具合に、劇場版プリズマイリヤは、Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤの前日譚であると同時に、Fateシリーズの1つのストーリーとしてこんな物語もあり得たのではないか、というパラレルストーリーとしても特異なものとして見ることが出来ます。

一言でまとめてしまうと、世界を救うか妹を救うかで妹を選んだ、というだけなのですが、それをやるのがこのFateシリーズの外伝であり、衛宮士郎という特殊な思いを持つ人間であることがこの作品のヤバさを引き立たせているわけです。また、たったそれだけの結論に至るまでの道筋や描写も秀逸でした。実のところ、本当に士郎にはいくつも逃げ道が用意されてました。ほんとうに世界が救いたいならエインズワースに任せるなり、聖杯戦争に勝った時点でそれをすることも出来ました。なにもかも忘れて桜と逃げることも出来ました。けど、現実がそれを許さなかったり、逃げ道を潰されたり、何より士郎と本当の兄妹になりたいと願った家族の願いを叶えるには、聖杯戦争の力を使うしかないと絶望の中で気づく流れは、涙なしには見られません。

そしてこの作品もっとやばいのは、コレほどの願いを背負ったキャラクターがしれっとプリズマイリヤ本編の最序盤から参戦しているということです。本編ではあまり彼女の過去には触れられず、気がついたら当たり前のように英霊のカードを収拾する戦いに参加している。くらいの書き方がされています。そんな美遊の正体が判明するのは、原作2部のクライマックス。もっというと第3部の引きとして、わけも分からぬまま次の展開に放り出されるという、エグいことこの上ないストーリーが用意されています。

正直、かなり昔に原作一巻を読んだときは細かいことを考えないドタバタものかと思っていましたが、ここ最近の展開は本当に

あっ、これまごうことなきFateシリーズだわ…

と思わせるレベルの緻密な構想が隠されていたと感じさせるものになっています。映画の前に原作を一気読みしましたが、三回くらい死にかけました。そのくらいおすすめの作品です。

と言った感じで、劇場版プリズマイリヤがどのくらいやばいか、少しは伝われば幸いです。

そして、最後に10月からいよいよ公開されますね。Fate/stay night最後にしてプレイ時間の半分を占めるといわれる最大のルート。Heaven's_Feelがついにやってきます。最初にポロッとかいちゃいましたが、劇場版プリズマイリヤのストーリーをこのHeaven's_Feel公開直前にやるこのクソ度胸。まじでやばいですね…まあ、ここまで読んでる皆さんはなにが待ってるか知ってでしょうから、なんとなく伝わってるといいですね…

それでは今回はこのへんで。さようなら。